狂い咲く薔薇を君に 牧場智久の雑役

 竹本健治の連作短編推理小説。牧場智久シリーズ。『せつないいきもの』の前作にあたる学園推理小説。『せつないいきもの』に比べると、ライトノベル風味は抑え目です。
 もともと、東海洋士、千街晶之福井健太の各氏とともに企画し、幻となった、ミステリマンガ向けのプロット、アイデアを、小説に焼きなおしたものだそうです。
 そう思って読むと、マンガにしたときに、画面映えするトリックが、効果的に使われていると感じられます。高校を舞台に続発する殺人事件という派手な道具立ても、いかにもマンガ向きです。
 主人公は、高校生、津島海人。津島海人が片想いしているのが武藤類子、そして武藤類子の彼氏が、名探偵にしてプロ棋士の牧場智久となっています。一般的なホームズ、ワトソンものと比べると、主人公から、名探偵までに、もうワンクッションある感じです。
 ただ、この設定が推理小説として成功しているかは、ちょっと微妙です。漫画ならよいのかもしれませんが、推理小説としては、主人公の特徴が乏しく、ニュートラルすぎて、いまひとつ深みがない感じです。また、主人公が、探偵役と直接つながっていないので、ちょっとまだるっこさも感じます。そのぶん、青春小説的な味わいはあるのですが。
 海人君にはかわいそうですが、次作『せつないいきもの』で、主人公を武藤類子に変更したのは、正解だったと思います。
 ミステリーとしては、かなり古典的で、端正なフーダニット。読みやすく面白い作品でした。