秋期限定栗きんとん事件(上・下)

 米澤穂信の長編青春ミステリー。
 『春期限定いちごタルト事件』、『夏期限定トロピカルパフェ事件』に続く、「小市民シリーズ」の3作目です。創元推理文庫から、文庫書き下ろしで上下巻。『夏期限定トロピカルパフェ事件』の衝撃の幕切れから、待望久しかった新刊です。
 この作品を単体で読んでも面白いのですが、一筋縄ではいかない高校生、小鳩くんと小佐内さんの人となりを知り、そのねじれた足跡をたどるためには、シリーズの最初から読むことをお勧めします。
 1作目『春期限定いちごタルト事件』は連作短編集、2作目『夏期限定トロピカルパフェ事件』は、連作短編にも長編小説にも読める作品です。いずれも創元推理文庫より。甘そうなタイトルですが、甘いだけじゃない青春推理小説です。


春期限定いちごタルト事件 (創元推理文庫)

春期限定いちごタルト事件 (創元推理文庫)


夏期限定トロピカルパフェ事件 (創元推理文庫)

夏期限定トロピカルパフェ事件 (創元推理文庫)


 「小市民シリーズ」は、故あって「小市民」を目指す高校生、小鳩くんと小佐内さんが主人公です。
 小鳩くんは、本来は謎解きが大好き、その能力も卓越しています。しかし、中学時代、その謎解き大好きの性癖は、いらぬトラブルを引き起こし、本人と周りを、不幸にしてきました。そのため、高校生に入ってからは、謎解きを封印し、ひたすらに「小市民」を目指しています。しかし、事あるごとに、謎解き好きの性癖は頭をもたげて…。屈折しまくった名探偵です。
 同じく「小市民」を目指す小佐内さんの正体については、秘密にしておきます。詳しくは『春期限定いちごタルト事件』を読んでください。
 『秋期限定栗きんとん事件』では、新聞部の瓜野くんが、もうひとりの主人公として出てきます。瓜野くんは、木良市内で連続する放火事件を追うのですが… 青春期の万能感を打ち砕くことでは定評のある米澤穂信です。瓜野くんの運命やいかに。
 内容については、あまり書くとネタバレの嵐になりそうなので、自粛しておきます。体温は低いけれど、スペックは高い小鳩くん、小佐内さんと、体温は高いけれど、スペックは低い瓜野くんの、対照的な姿が面白かったです。
 マロングラッセ事件じゃなくて、栗きんとん事件だったところにも、きちんと意味があり、業が深いことが分かって、いい感じでした。冬期限定が待ち遠しいです。


秋期限定栗きんとん事件〈上〉 (創元推理文庫)

秋期限定栗きんとん事件〈上〉 (創元推理文庫)


秋期限定栗きんとん事件 下 (創元推理文庫 M よ 1-6)

秋期限定栗きんとん事件 下 (創元推理文庫 M よ 1-6)