『おおきなのっぽの、』1巻
- 作者: 柴
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2017/01/06
- メディア: コミック
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1.はじめに
発売から日が経ってしまいましたが、柴先生の4コマ漫画単行本、『おおきなのっぽの、』1巻について、紹介記事を書いてみたいと思います。
作者の柴先生は、『まんがライフ』の読者であれば、『白衣さんとロボ』でおなじみでしょう。柴先生のもうひとつの作品である『おおきなのっぽの、』は、『少年シリウス』に連載されている4コマ漫画です。
掲載誌の傾向が異なるので、4コマ漫画誌の読者のアンテナには、もしかしたら引っかかっていないかもしれません。しかし、とても読みやすく、幅広い読者層が楽しめる作品で、4コマ漫画が好きならば、チェックをして損のない単行本です。
『まんがライフ』の『白衣さんとロボ』は、一軒の家を舞台にした、白衣さんとロボの二人の日常マンガです。ホームドラマでもあって、SF的なのに妙にリアリティーのある描写が味となっています。
これに対して、『おおきなのっぽの、』は、もっと広い舞台で展開される日常マンガとなっています。小学生の女の子が主人公で、家、学校、町内などが活躍の舞台になります。家族、友達、先生、ご近所さんといった、さまざまな人たちと過ごす日々が、にぎやかに、穏やかに描かれます。
2.キャラクターの魅力について
主人公の古戸蛍さんは、小学4年生。見てのとおりの美人で、身長は170cm。4コマ漫画としては、「高身長もの」のジャンルになるのでしょうか。
蛍さんの魅力は、大人っぽい見た目に反して、普通に無邪気で、普通にやさしくて、普通に元気であること。インパクトの強さを考えると、本来は主人公向きの性格ではないのですが、「普通さ」に「高身長」という属性をプラスすることで、普通の無邪気さ、普通のやさしさ、普通の元気さが、特別なものとして輝いてきます。
そして、蛍さんの存在は、人が誰しも持っている普通さが、実は、それぞれに特別で、かけがえのないものであることを、気づかせてくれます。
この電話のシーンで、後ろにいるのはお母さん。こちらも美しい。電話の相手はお父さん。お互いがお互いを大好きなのが伝わってきて、微笑ましい家族です。
そして、友達の巴さん、千歳さん、真理さん(左から)。照れて遠慮する蛍さんを、ナチュラルにお雛さま役にして、楽しく笑っている娘たち。
男の子は赤井君。千歳さんと赤井君は、広い図書室で、わざわざ隣に座っているくらいの関係性のなかで、どちらが古戸蛍さんを好きかについて言い争っています。基本的に愛しかないです。
3.世界の魅力について
作品世界のディティールが作りこまれていることも、『おおきなのっぽの、』の魅力のひとつです。
家、学校、町内の描写に奥行きがあって、作品に描かれていない場所、作品に描かれていない時間についても、想像が広げられます。
日常系の漫画なのですが、ページを開くと、現実とはまた別の世界がひとつ広がっている感覚があり、そこから流れてくる空気まで感じられる気がします。別世界をひとつ構築するという意味では、ファンタジーとしての要素もあるのかもしれません。
このような作品世界の作りこみには、むんこ先生の『らいか・デイズ』や、あずまきよひこ先生の『あずまんが大王』、『よつばと!』と通じるものがあります。読んでいての感覚としても、それらと共通した部分が感じられます。
小道具としては、主人公の自宅の弁当店に、柱時計、黒電話、台秤、スノードームなど、古いアイテムが多いことが印象的です。これらのアイテムは、この弁当店が祖父の代から続いていること、2年前に亡くなった祖父が今でも大切な存在であり続けていることを表現するものです。このようなことを手掛かりに、作品世界の過去にもついても、思いを馳せることができます。
このように、『おおきなのっぽの、』のページは、どこでもドアの入口にも、タイムマシンの入口にもなっています。