滝を見にいく

 沖田修一監督のコメディー映画。
 キャッチコピーのように「7人のおばちゃん、山で迷う。」という映画です。


 出演する7人のおばちゃんは、「40歳以上・経験問わず」という条件でオーディションをして決めた、プロとアマチュアの混成部隊。有名な映画女優はいません。
 そのため、キャラクターを演じるというよりも、本人の個性に応じて脚本に手を入れて、本人のキャラクターを生かし、映画の面白さにつなげていくという手法をとっています。
 普通のおばちゃんとひとくくりにされそうでも、人間、長く生きていると、人間関係も、趣味も、特技も、いろいろあるものです。
 『南極料理人』『キツツキと雨』『横道世之介』などのように、プロの役者から魅力を引き出せる監督は、アマチュアからもきちんと魅力を引き出せるものだ、と感心しました。人間に対する理解が、凡人とは違うのでしょうね。


 山道に迷ったおばちゃんたちは、やがて開き直り、それぞれの特技を生かして、山の中で、蛇をつかまえたり、太極拳をしたり、縄跳びをしたり、胡桃を割ったり、歌をうたったり、1泊2日のサバイバルをします。
 娯楽映画においては、主人公が「空を飛ぶ」時間帯が必要だ、というのが私の持論なのですが、おばちゃんたちは確かに空を飛んでいました。


 オールロケ、撮影日数10日という低予算映画ですが、脚本、演出が良く、十分満足できる楽しさと密度があります。なお、撮影日数は10日ですが、アマチュアを含むキャストのため、撮影は順撮りで行われたということで、事前のロケハンには相当に手間をかけていたと思われます。


 ここぞというときの長回しも効果的でした。冒頭の山道での長回しで、次々とおばちゃんが山道を登ってきては、その会話と行為でキャラクターを印象付けていく巧みさや、エンドロールでの長回しの興趣は、前者は演劇的、後者は映画的でしびれました。


 自主映画を撮っている人たちにも大いに参考になる作品だと思います。山道での群像劇というのは、確かに低予算映画にうってつけだし、演者のキャラを活かす脚本で、演技を引き出すテクニックも合理的です。脚本や構成がしっかりしていれば、それがもたらす面白さは、大作映画と同等以上となり得ることも、きちんと示しています。