コクリコ坂から

 普通に退屈で、普通に出来の悪いアニメーション。キャラクターも背景もストーリーも音楽も、平板で凡庸でしたが、いい点も多少はありました。


 前半は、カットを嫌というほど重ねているのに、ストーリーもキャラクターも全く動かず、どうなることかと思いましたが、95分の尺の中に、後半部分を無理矢理に詰め込んだため、思いがけず後半のストーリーにリズム感が出て、ただイベントをこなしているだけとはいえ、一応は観客の退屈を忘れさせる時間帯が10分程度ありました。ゲド戦記から比べれば大きな進歩です。


 もうひとつの進歩は、宮崎駿の脚本を、宮崎吾朗監督が自分なりに頭を使ってアレンジしていて、その方向性があまり狂っておらず、誠実さがみえた点です。
 出版されている脚本を読んだ感想は、 前の記事で書きましたが、宮崎駿が書いた脚本からの大きな修正点が、二つありました。このことは評価してよいと思います。
 一つ目は、カルチェラタン取り壊しの是非を問うアンケートが逆転し、取り壊し反対派が多数となった描写を追加したことです。これは必須でしょう。
 二つ目は、俊の父と海の父が別人であるということがわかるタイミングを、当初の脚本よりも、後ろにずらしたことです。そのため、海は、真相を知らぬまま、理事長に直訴に行き、真相を知らぬまま、その帰りに「俊が好き」と宣言します。このことにより、海の「俊が好き」というセリフの重みが全く違ってきます。この変更には賛否あると思いますが、個人的には賛成したいと思います。


 1960年代感の出し方は、こんなもんか、という程度。カルチェラタンは思ったよりも狭かったです。大掃除は思っていたより大規模でした。塗装や壁塗りって、それはもう掃除やない改装や。4コマ漫画ファンには、やまだ荘が緑色になった感じと言えば通じるかも。
 しかし、古いものを残せと言いながら、迷ったら捨てろと備品の大処分を行うあたり、矛盾を感じなくはなかったです。


 わざわざ大スクリーンで見るほどの価値はないですが、ゲド戦記ほど悲惨な出来にはなっていないので、そこは進歩かなと。
 この作品の、生真面目な二人のストレートなラブストーリーというのは、近年では結構珍しいのかもしれず、新鮮さはありました。高校文化部のノリも懐かしかったです。また、演出のぎこちなさが、恋する不器用な二人のぎこちなさとリンクして、けっこう味になっているところは、大きな見所かもしれません。


脚本 コクリコ坂から (角川文庫)

脚本 コクリコ坂から (角川文庫)


コクリコ坂から (角川文庫 み 37-101)

コクリコ坂から (角川文庫 み 37-101)