紙の月

 吉田大八監督のサスペンス映画。角田光代の同名小説が原作。
 『霧島部活やめるってよ』など、多視点ドラマを得意とする吉田監督ですが、今回は、横領に手を染める女性銀行員に、あえてカメラを固定して、犯行の開始から、蕩尽の日日と露見までを、じっくり、じっくりと描きます。おどおどとした女性行員の奥にゆらめく得体の知れないものを、宮沢りえが恐ろしいほどの精度で演じていきます。


 彼女は、内心を吐露する台詞を一切口にしません。そして、犯行に至る恋愛の描写も、言葉ではなく、映像によって表現されています。感情移入しにくいと不満を感じる観客もいるかもしれません。彼女の境遇に同情したり、彼女を断罪したりしたい人には向かない作品でしょう。しかし、それは意図的なもの、戦略的なものです。


 この作品は、現実的な女性として、主人公に100%感情移入できるようには作られていません。哀れで愚かな女性としての面は確かにあります。しかし、決してそれだけではない。
 はっきりとは理解できないのですが、善悪を超えた、なにか得体の知れない力のようなものが、その後ろにあって、それは、現実を超越した彼岸の存在のようでもあります。
 そのエネルギー体は、言葉では形容できないものであるため、この作品においても、それを言葉で説明しようとはしていません。すべては主演宮沢りえの圧巻の演技と、的確な演出によって表現されています。


 脚本は、現実という2次元のリアリティを表現することに徹していますが、宮沢りえを映す画面には、確かに3次元のモヤモヤとしたエネルギー体が感じられます。そして、観客は、そのエネルギーが爆発し、推進力を生むときを目撃します。