逆流主婦ワイフ1巻
- 作者: イシデ電
- 出版社/メーカー: KADOKAWA/エンターブレイン
- 発売日: 2015/05/25
- メディア: コミック
- この商品を含むブログ (1件) を見る
イシデ電先生の『逆流主婦ワイフ』1巻を読了しました。「主婦」を巡るあれこれを、剛速球と超絶変化球を織り交ぜて描く、オムニバス短編漫画の第1巻です。
コミックビームには、須藤真澄先生という短編漫画の天才がおられるのですが、イシデ電先生の実力も驚嘆すべきものです。竜虎の趣がありますね。
短編漫画集というスタイルは、漫画ビジネスの主流ではないようです。しかしながら、短編漫画でしか表現のできないことがある以上、どうしても商業的に存続させていかなくてはなりません。その意味で、須藤真澄先生の短編の読者がイシデ作品を読み、イシデ電先生の短編の読者が須藤作品を読む、というコミックビームの状況は、非常に望ましいものと言えるでしょう。
この作品の短編を構成するテクニックは様々ですが、一部には、短編推理小説のテクニックと共通したものもみられます。そこで、以下ではミステリファンの視点からの簡単な感想をまとめていくことといたします。
#1 ミートチョッパー
語り手の正体が、当初読者の想像していたものとは異なるという意味で、強力な叙述トリックと言えます。また、語り手のあり方については、ある意味で、乙一先生のある作品を連想する人がいるかもしれません。ただし、本作の語り手のあり方に関するインパクトとオリジナリティは突出しています。
#2 デジタル一眼
カメラの価値に関するヒエラルキーが逆転することで、より大きなヒエラルキーが逆転してしまうという論理のアクロバット。亜愛一郎シリーズや『煙の殺意』などの泡坂妻夫作品に通じる味があります。
#3 3足千円
なぜ彼女は穴を掘るのか、というホワイダニット。
#4 秋田犬
「飼いたい人」は「飼いたい人」でした。
#5 カリスマ
最後の1コマで落とす。ミステリでは、最後の1行で落とすのをフィニッシング・ストロークと言います。
#6 子猫ちゃん
主婦が出てこない主婦漫画、と思わせておいて、やはり最後の1コマに登場。
#10 砂場の家
未来のものと思った記述が、実は過去のものであったという時間錯誤トリック。
#12 砂糖醤油
傍からは何も考えていないように見える人でも、いろいろと考えているものだし、傍からは何も悩んでいないように見える人でも、いろいろと悩みはあるし。そういったことが人生の謎を構成しているのでしょう。