迷走パズル

迷走パズル (創元推理文庫)

　パトリック・クエンティンの長編ミステリ。
　舞台は精神病院。舞台の火事で妻を失いアルコール依存症に陥った舞台演出家が主人公です。聞こえるはずのない声が聞こえるという怪事から、ついに殺人事件が発生。鬱病病みの女性に恋をした主人公は、彼女を救うために奮闘します。
　本格推理小説黄金期にあたる1936年の作品ですが、古びておらず、訳文のせいもあるでしょうが優れて現代的でした。
　精神病院を舞台にしているのに、暗くならずに、多彩なキャラクターが登場して、明るくユーモラスです。戦前の作品だと、エラリー・クイーンなどの場合もそうですが、どうしても精神病患者への蔑視がにじむものですが、この作品では、蔑む視線は感じられず、精神医療の在り方も近代的で合理的でした。
　破産したと思い込んだ大富豪や、ドラッグストア店員だと思い込んだフットボール選手、神の声を聞く青年、盗癖のある老婦人、にぎやかなキャラクターがひしめく楽しい推理小説です。それでいて、終盤の緊迫感はなかなかのもの。犯人は誰？そして名探偵は誰？