折れた竜骨

 米澤穂信の長編ミステリ。
 時は十二世紀、イングランドの東、ソロン諸島を舞台にした、歴史ファンタジー本格ミステリです。
 邪悪なる暗殺騎士に命を狙われた島の領主、暗殺騎士を追う騎士ファルクと弟子の少年ニコラ、ソロン島に迫る呪われたデーン人の脅威。物語の主人公は、中世ファンタジーには珍しく若い娘で、領主の娘アミーナです。きわめて聡明にして勇敢な女性。
 騎士ファルクの警告にも関わらず、命を落とすこととなった父。暗殺騎士に操られ、走狗(ミニオン)として、英邁なる領主を殺したのは誰か。剣と魔法と本格推理が火花を散らします。
 舞台設定は、魔法アリ、呪いアリのファンタジールール。そのなかで、ガチガチの本格推理のロジックに基づいて、消去法によるフーダニットが行われます。主な容疑者となるのは、海の向こうからやってきた、いずれも一癖も二癖もある傭兵たち。
 シャーロックホームズいわく「全ての不可能を消去して、最後に残ったものが如何に奇妙な事であっても、それが真実となる」。騎士ファルクの操る消去法は、最終的に誰に牙をむくのか。
 登場人物のそれぞれがしびれるほどに格好よく、展開もスピーディーで、中盤にはデーン人との戦闘まであり、ページをめくる手が止められない面白さ。しかも、呪われたデーン人に対する傭兵の戦いぶりが、フーダニットにおける絞り込みの材料ともなっていたりして、構成に隙がありません。
 ソロン島の歴史、地理、社会、経済も、非常にユニークながら、手堅く構築されていて実に見事という印象。米澤穂信の新しい才能を見た思いです。歴史好きの読者にも、ファンタジー好きの読者にも、本格推理好きの読者にも、自信を持ってすすめられる1冊。傑作です。
 キャラクター的にいうと、騎士ファルクとニコラのイメージが、プリキュア映画のサラマンダー男爵とオリヴィエに重なる印象を受けて、ツボでした。


折れた竜骨 (ミステリ・フロンティア)

折れた竜骨 (ミステリ・フロンティア)