アニメ映画の興行収入について(サマーウォーズを中心に)

 去年の夏に公開された映画『サマーウォーズ』は、興行収入が16億円超と、まずまずのヒットとなりました。この規模のヒットは、非テレビアニメ、非ジブリのアニメ映画としては、かなり異例のことのようです。
 このヒットが、他のアニメ映画などと比較して、どのように位置づけられるかを確認するために、興行収入をグラフ化して、整理してみることにしました。
 日本をはじめとした各国の映画の興行収入については、アメリカの某サイトにおいて、ドル建てでまとめられています。そこのデータを使って、グラフの作成を行いました。そのサイトでは、その週の興行収入ランキング十数位までの映画について、週末の興行収入とウィークディの興行収入をみることができます。
 なお、グラフをみるうえでは、以下の点にご注意ください。


・ ドルから円への換算は、自己流で不正確です。よって、グラフの数値は、あくまでも参考値とお考えください。
興行収入がランク外となると、公開が続いていても、興行収入が追えなくなります。したがって、グラフ化している範囲の数値は、最終的な興行収入よりも、いくぶん少なくなっています。グラフにおける最終興行収入が、公式発表のものより少なくなっているのは、そのためです。
興行収入の上位しかデータがないため、公開スクリーン数の小さい映画については、興行収入が把握できない場合が多くありました。そのため、本来ならば比較したかった『時をかける少女』や今敏監督作品については、グラフにできませんでした。
・ 作品によっては、一度ランク外に落ちてから、ランキングにもどってくることがありました。その場合、ランク外期間の興行収入は、適当に補間してプロットしています。


 まずは、近年の非テレビアニメ、非ジブリのアニメ映画について、累計興行収入の推移を整理しました。比較したのは、『サマーウォーズ』、『ブレイブストーリー』、『あらしのよるに』、『イノセンス』、『スカイ・クロラ』、『河童のクゥと夏休み』、『ホッタラケの島』、『レイトン教授と永遠の歌姫』の8本です。



 このうち、オリジナルアニメは、『サマーウォーズ』と『ホッタラケの島』だけです。
 『ブレイブストーリー』、『あらしのよるに』、『スカイ・クロラ』、『河童のクゥと夏休み』は小説を原作にしており、『イノセンス』は漫画を、『レイトン教授と永遠の歌姫』はゲームを原作としています。
 非テレビアニメの映画においても、原作なしのオリジナルで、それなりの規模で公開する映画というのは、少ないようです。もう少し公開規模の小さい映画では、今敏監督作品など、オリジナルのアニメはもう少しあるのですが。
 今後の映画では、『宇宙ショーへようこそ』や『夢みる機械』などが、オリジナルアニメのようですね。
 非テレビアニメ、非ジブリのアニメ映画には、特大ヒットというものがなく、『あらしのよるに』、『サマーウォーズ』、『ブレイブストーリー』の3本が中ヒットとなっています。非テレビアニメ、非ジブリのグループのなかでは、『サマーウォーズ』の最終興行収入は2番目に多く、原作のネームバリューのないオリジナル作品としては、大健闘したことがわかります。
 また、『サマーウォーズ』は、興行収入ランキングに入っている期間が他の映画より長く、ロングランタイプのヒットであったことも確認できます。


 続いて、こちらのグラフは、期間毎の興行収入をスクリーン数で割った数字を整理したものです。その期間、1つの映画館にどのくらいの観客が集まったのかの目安となります。



 このグラフでは、他の作品と比較して、『サマーウォーズ』が突出しています。
 『サマーウォーズ』の封切スクリーン数は、127と比較的少なかったのですが、そのぶんスクリーン当りの興行収入は高くなっています。映画館にとってうまみのあるコンテンツであったため、ロングランが可能になったものと考えられます。
 グラフをみると、週末2日間の興行収入が20万円/スクリーンを割り込むと、上映打ち切りとなる場合が多いようです。ロングランを狙うためには、適切な公開規模の選定が不可欠です。
 その他の作品をみると、非テレビアニメ、非ジブリのアニメ映画は、映画館の商売としては、残念ながらあまりおいしくない場合が多かったようです。
 スクリーン当りの興行収入の少なかった作品は、『ホッタラケの島』と『レイトン教授と永遠の歌姫』です。これらの作品に関しては、封切スクリーン数(ホッタラケ211、レイトン311)が、やや多すぎたと考えられます。


 次は、大ヒットアニメとの比較です。『崖の上のポニョ』、『エヴァンゲリオン破』、『ゲド戦記』、『One Piece Film ストロングワールド』と『サマーウォーズ』を比べます。



 上には上があるもので、累計興行収入では、ジブリエヴァには、とてもかないません。



 ただし、スクリーン当りの興行収入をみると、『サマーウォーズ』は他よりは低いものの、それほど大きな差はなく、健闘ぶりが確認できます。映画館にとっては、大ヒットアニメに次ぐ、おいしいコンテンツであったと考えられます。それにしても、『One Piece Film ストロングワールド』の初動は、バケモノですね。


 続いては、興行的にうまくいかなかった実写映画との比較です。作品のチョイスは個人的な趣味です。




 コケた映画では、累計興行収入の傾きがゆるくなるのが早いことがわかります。
 洋画の場合、字幕、吹き替えがあるので、スクリーン数が増えるという事情もあるのですが、それを考慮しても、『ドラゴンボールエボリューション』のスクリーン当りの興行収入はかなり悲惨なことになっています。映画のできを考えればやむなしですが。


 最近のアニメ映画についても、比較を行ってみます。『涼宮ハルヒの消失』、『マクロス イツワリノウタヒメ』『ヤマト復活篇』。



 累計興行収入では、ハルヒマクロス≒ヤマトですが、3者にはあまり顕著な差がないようです。



 ところが、スクリーンごとの興行収入では、非常に大きな差がでました。『ハルヒ』『マクロス』は、スクリーン数が少ないこともあって、スクリーン当りの興行収入は非常に高くなっています。映画館にとっては、ありがたいコンテンツです。
 特に『ハルヒ』の数字は、『エヴァンゲリオン破』とほぼ同等です。これは大成功と言えるでしょう。
 それに対し『ヤマト』は、スクリーン数が多すぎて、スクリーン当りの興行収入が非常に低く、映画館にとっては、お荷物のコンテンツとなってしまいました。


 続いては、棒グラフでの比較。まずは、初動興行収入(最初の土日の興行収入)と最終興行収入(ランキングから落ちた時点の興行収入で公式のものより少ない)を比較します。




 最終興行収入/初動興行収入を計算すると、下図のとおりとなりました。この数字が大きいほどロングラン型、小さいほど初動型の興行となります。『サマーウォーズ』は『ポニョ』に次いで、ロングラン型の傾向を示しました。
 意外なところでは、『河童のクゥと夏休み』がロングラン型です。初動はぱっとしませんでしたが、じわじわと粘った感じ。原監督の次回作『カラフル』も楽しみです。
 大ヒットした『One Piece Film ストロングワールド』は、初動がすごすぎただけに、やはり初動型の興行になっています。



 最終興行収入/封切スクリーン数を計算すると、下図となりました。この数字が大きいほど、映画館にとって、大きな商売の作品となります。
 上位グループ、中位グループ、下位グループが、はっきりと分かれる結果となりました。『サマーウォーズ』は上の下くらい。



 わかったことをまとめると、以下のとおりとなります。
 『サマーウォーズ』の興行収入は、非テレビアニメ、非ジブリのアニメ映画としては、トップクラスのヒットとなりました。ただし、他のヒット映画と比較すると、ヒットの規模は小さく、中ヒットといったところです。
 ただし、公開館数が127館と比較的と少なかったこともあり、スクリーン当りの興行収入は、大ヒット作品と比較しても、さほど見劣りするものではありませんでした。そのため、ロングラン興行が可能となり、より興行収入を伸ばすことができたと考えられます。
 固定ファンがいるアニメ作品については、公開館数をしぼって成功する例がありました。例えば、『ハルヒ』、『マクロス』は、スクリーン数を24〜30とすることで、興行的な成功をおさめています。


 おまけ。上映中の『アバター』と『崖の上のポニョ』の累計興行収入を比較すると、下図となりました。『アバター』の興行収入が下がっている箇所がありますが、元のデータがそうなっていました。理由は不明。ちょっとデータの信頼性がゆらいでしまいます。『ポニョ』の興行収入が、ぴょんと上がっている場所も同様です。
 『アバター』は、『ポニョ』以上にロングラン型のようです。



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