本格ミステリ08

 最近、読書ペースが落ちてきて、発売直後に買ったこの本も、今頃になって読了です。
 本格ミステリ作家クラブが選んだ2008年本格短編ベスト・セレクション。作者のコメント付き。以下、各作品の感想です。


『はだしの親父』 黒田研二
 身なりに気を使う大人が、屋外で裸足になるのは、どんなシチュエーションか。そのバリエーションを、上質の人情話に仕立ててあります。


ギリシャ羊の秘密』 法月倫太郎
 本人の短編集で既読。端正な本格ミステリ、だけど、ちょっとバカミスの要素もあり。
 真っ暗な部屋を、壁伝いに歩いて、明かりがついてふり返ったら、手が当たった部分にしか壁が無く、足が当たった部分にしか床が無かった、みたいな綱渡り感覚。
 作者の言うとおり、「あさっての方を向いている」部分が、確かにあります。


『殺人現場では靴をお脱ぎください』 東川篤哉
 本集中で、2番目に面白かった作品。よく工夫されたユーモアミステリーで、真相には膝を打ちました。『はだしの親父』とは逆に、靴を脱がない死体の話。
 文章もシンプルで読みやすかったです。『館島』も読んでみようかな。


『ウォール・ウィスパー』 柄刀一
 龍之介シリーズ。単行本では読んでいないのですが、よくアンソロジーに採用されるシリーズなので、おおまかな話の流れはつかんでいます。学習プレイランドを作るという話ですね。
 本作は、プレイランド建設に当たって、一部解体される銭湯にまつわる話。シリーズ全体の流れの中に、パズルのピースのように、はめ込まれた作品です。
 40年も前の事件を解決するので、多少ご都合主義的な展開になるのは、やむを得ないところでしょうか。犯人の運命などに、それを感じました。


『霧の巨塔』 霞流一
 消失する巨塔と、殺人事件。犯人探しのロジカルな面白さと、塔の消失の、霞流一らしいバカミス的トリックが味わえます。


『奇偶論』 北森鴻
 蓮杖那智シリーズ。このシリーズも、よくアンソロジーに採られています。
 内藤三國の自信のなさには、ちょっとイライラしてきますが、北森鴻らしい、よく工夫されたミステリです。逆転の構図が見事。


『身内に不幸がありまして』 米澤穂信
 集中のベストです。
 青春ミステリの旗手、米澤穂信が新境地を示す、女性の一人称の語りで、旧家の内幕を描くシリーズの一作(といっても、本作のほかはStory Sellerの『玉野五十鈴の誉れ』しか読んでいませんが)。
 作者の言葉にあるように、「フィニッシング・ストローク」ものですが、それにしても、何と大胆不敵なフィニッシング・ストロークであることか! 鳥肌が立ちます。
 Story Sellerは雑誌です。現在読書中。こちら↓


Story Seller (ストーリーセラー) 2008年 05月号 [雑誌]

Story Seller (ストーリーセラー) 2008年 05月号 [雑誌]


『四枚のカード』 乾くるみ
 短編にしては登場人物が多く、多少戸惑いますが、ダイイングメッセージもの、フーダニットものとしては、やむを得ないところです。
 作品中にも手品が出てきますが、作品自体も、丁寧に改めをした手品のようです。


『見えないダイイングメッセージ』 北山猛邦
 極度に内気な名探偵というシリーズの一作。キャラクター設定が面白く、続きを読んでみたくなります。変則的なダイイングメッセージもの。


『自生する知と自壊する謎 ―森博嗣論』 渡邉大輔
 評論。すみません、よく分かりませんでした。森博嗣も、『すべてがFになる』くらいしか読んでいませんので。