『猫の恩返し』と『時をかける少女』


 アニメ映画の話です。2008年7月4日に、森田宏幸監督の『猫の恩返し』が、7月19日に細田守監督の『時をかける少女』が、それぞれ地上波放映されます。
 製作過程に因縁が深く、物語の構造が非常に似ている、この2本の作品を、これを機会に見比べていただくのも、一興かと思いまして、参考のために、この文章を書くことにいたしました。

1.製作過程の因縁について

 森田宏幸監督の『猫の恩返し』は、2002年公開のジブリ映画です。一方、『時をかける少女』の細田守監督も、2000年の8月から、2002年の4月まで、ジブリに出向していました。『ハウルの動く城』を監督するためです。当初、森田監督の『猫の恩返し』と細田監督の『ハウルの動く城』は、中編映画の2本立てとして公開される予定でした。森田監督と細田監督には、このような因縁があるのです。
 ところが、細田版の『ハウルの動く城』は、製作中止となってしまいました。その理由については、関係者が口を閉ざしているので分かりません。ただ、その後、『猫の恩返し』は長編映画になって公開され、『ハウルの動く城』は、宮崎駿監督によって、改めて映画化されました。
 東映に戻った細田監督は、TVシリーズ『おじゃ魔女どれみドッカーン!』40話、「どれみと魔女をやめた魔女」を演出します。細田監督いわく、「自分のなかでは、途中で挫折してしまった『ハウルの動く城』と、この「どれみと魔女をやめた魔女」は、じつは連続性があるんです。」とのことです。
 この「どれみと魔女をやめた魔女」は、名作として評判を呼びます。これを見たマッドハウスが、細田監督を招聘して製作した映画が、2006年の『時をかける少女』です。
 両作品には、『猫の恩返し』 → ハウル → どれみ → 『時をかける少女』という繋がりがあるわけです。

2.物語の構造における相似について

 『猫の恩返し』と『時をかける少女』は、いずれも少女を主人公とした青春映画です。普通の少女が、不思議な体験をして、成長をし、また日常生活に戻っていく、という構造も同じです。
 また、映画の冒頭で、少女が目覚まし時計に起こされ、遅刻しそうになって、あわてて家を出て、学校まで急いで、教室にもぐりこむ、というシークエンスも共通しています。
 だから、両作品を見て比較すると、両監督の資質の違いなどが垣間見えて、興味深いと思います。時間のあるかたは、ぜひ比べてご鑑賞ください。

3.両作品の個人的な評価

 以下は、両作品に対するきわめて個人的な評価です。意見が合わない方は、無視してくださってかまいません。


猫の恩返し
 娯楽作品としては、十分に成立しています。良作の部類に入ると思います。
 ただし、原作漫画と比較すると、映画ならではのプラスアルファが少ないと感じます。映画に魅力的なシーンはあるのですが、それらは原作にもあるもので、映画オリジナルな魅力には乏しいです。
 異世界感が不足していて、猫の国に入ってからが、ちょっと安っぽいのも残念です。


時をかける少女
 SFとして見ると瑕疵は確かにありますが、良作であることは間違いありません。
 個人的には、この作品1本で、すっかり細田監督のファンになってしまいました。脚本、演出、作画、美術、キャスト、音楽、すべてが素晴らしいです。見た人の人生を、少しだけポジティブに変えてくれる、魔法のような力を持った作品だと思いました。
 未見の方は、ぜひこの機会にご覧いただいて、自分の目で、その魅力に触れてもらいたいと思います。


 また、両作品の製作費を比較すると、おそらく『猫の恩返し』>>『時をかける少女』だと思います。『時をかける少女』の製作コストパフォーマンスの良さも特筆すべきでしょう。
 森田監督も、現在はジブリを離れて、TVシリーズ『ぼくらの』の監督などをなさっています。
 2人が去った後のジブリは、脚本の破綻した『ハウルの動く城』、原作を踏みにじった『ゲド戦記』など、娯楽作を作ることに失敗し続けています。そういえば、『猫の恩返し』と同時上映だった『ギブリーズ』も酷い出来でした。
 『崖の上のポニョ』で挽回できるか、期待しています。しかし、宮崎駿が引退した後のジブリは、どうなるんだろう。


猫の恩返し / ギブリーズ episode2 [DVD]

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時をかける少女 通常版 [DVD]

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参考文献:

フリースタイル VOL.7  特集 細田守──『時をかける少女』を作った男

フリースタイル VOL.7 特集 細田守──『時をかける少女』を作った男