まんがくらぶ2016年11月号
まんがくらぶ2016年11月号の感想
『有閑みわさん』 たかの宗美
確かに「春雨」のように、「秋雨」という食べ物はありません。しかし、「時雨煮」ならある、と主張したい。
『父とヒゲゴリラと私』 小池定路
先月号で、印象的だったけれど、いまひとつ効果のつかめなかった階段のシーンは、今月への伏線だったのか。違和感を覚えさせておいて、次号で回収するという高等技術。
『おじさんとポニーテール』 香日ゆら
ワイド4コマという形式のため、1コマ中に流れる時間が増えており、4コマ漫画9本ですが、きちんと10ページ分の読み応えと情報量があります。
普通の幅だと、1コマではA→Bで終わる会話が、ワイド幅だとA→B→Aまで納められるわけで、コミュニケーションの妙を描く漫画に対して、この形式を実にうまくつかっているな、と感心しました。
『せんせいになれません』 小坂俊史
今回は、わりと実験作的な試みがされています。
普段の回では、フィクションの世界における、フィクションとしてのリアリティーが確立されているのですが、今回は、そのリアリティーからやや浮遊して、虚構性の高いシュールな味が感じられます。
フィクションに関するフィクションであるメタフィクションの味と言いましょうか。
例えば、今回のコマの構図には、数多くの仕掛けがあるのですが、これらは、作品世界内部に向けたものというより、作品外部の「読者」の存在を意識しての仕掛けであると判断されます。
「信用とは」 論理による純粋なパラドックスそのもの。しかし、3コマ目と4コマ目に向けて拡大していく河田の絵がないと、このパラドックスの面白さは、十分には伝わりません。その意味で、漫画で表現することの必然性が感じられます。
「THE 本末転倒」 2コマ目と4コマ目で、河田の姿勢と構図が同一になっています。そこに気が付くと、漫画の味が増してきます。また、1コマ目の河田は、次ページの沢口と、同じ構図で向かい合っています。作品内と構図の仕掛けと、作品外の構図の仕掛けが、同時に試みられた、デザイン性の高い仕上がりになっています。
「脱落者多数」 ひとつの道に固執するもの、しないもの、食欲に負けるもの、金に負けるもの、確かに分岐タイプの人間性テストだ。
「よくご存じで」 そして、ここでの問診票も、実質的には人間性テストなわけで。
「わかれよ」 前述のとおり、1コマ目の沢口は、前のページの河田と向かい合っているわけですが、それだけでなく、4コマ目の沢口は、2ページ前の河田と完全に重なっています。紙を1枚めくると、同じ構図で別のキャラになる仕掛け。
「どこから見ても小だ!! 桃山」 そして、ここの4コマ目の桃山も、前ページの沢口と重なる構図になっており、完全に表裏の関係になっています。トータルすると、2枚の紙で、3人のキャラが重なるかたちに。
「一目置かれてる」 和泉と藤田先生が、説明台詞キャラに。
『思春期コーヒードリップ』 裕木ひこ
めんどくさい人物を描くので、めんどくさい読み口になるのはやむを得ないところ。
佐藤くんと日下さんは、直接的に深いコミュニケーションを取っているわけではないのに、それぞれに思うところがあって、互いに触発されて変わりはじめる、というのは青春だなあ、と思います。