小坂俊史蔵出し小品集

 小坂俊史39フェア特製未収録作品小冊子『小坂俊史蔵出し小品集』の感想。


 『モノローグジェネレーション』『わびれものゴージャス』『れんげヌードルライフ』『ラジ娘のひみつ』の4冊の単行本のフェアに応募した特典です。小坂俊史先生の単行本未収録作品の一部を掲載した小冊子となっています。
 私が小坂俊史作品を読むようになったのは、2003年ごろからなので、『ガクランコンビナート』『はじめてのかいしゃ』『うるぐす共和国』は初読でした。

『ガクランコンビナート』

 現在では企画が通らないであろうガクラン高校生4コマ。1998年作品。もてない3人組、大里、中根、小谷の非硬派漫画。
 「月末恒例」 月末恒例モテくらべ。秒単位の女子との接触。これでも、男子校から見れば天国のよう。
 「なんでも拾え」 2コマ目と3コマ目の間違いさがしが伏線に。この井上さんが、西条大学に進学して、児童文学研究会に入ると、『サークルコレクション』の世界。
 「はにかみなさい」 なつかしいと感じる小学生の風俗も、知っているのは30年前だからなあ。今の小学生もこんなことをやっているのか。ツッコミ役に作者登場。
 「手紙を書け」 ボコボコにぶん殴る3コマ目は、若き小坂の荒ぶるバイオレンス。そういえば、初期の池田も暴力教師でした。映画『ゼロ・グラビティ』でも密かに活躍していたアマチュア無線。やる人が減っている今では、貴重な趣味になったかも。
 「書いたら出せ」 2コマ目、3コマ目で、傘置き場に傘があるのが伏線に。
 「いいとこ見せよ」 2コマ目の画力から、後には女子プロ野球漫画を描くまでの道のりを想う。女子と3塁コーチとランナーを、1コマで納めるレイアウト力には、光るものがありますが。
 「映画で釣れ」 シネコン前夜の時代。成人映画館も旧来の映画館も、次々につぶれました。
 「傘で誘え」 1コマ目の学生鞄の描写が妙に精緻。学生鞄も見なくなったなあ。
 「ナンパでもてろ」 「ガクランもぬげ」は正しい指摘だが、こいつらは私服も壊滅的なんだろうなあ。
 「ヒマ人を探せ」 ひま人調査をするくらいのひま人は、井上ちんくらい。
 「投げて伝えよ」 井上ちんに古文は読めるのかと考えると、読みやすいほうを読む行為は理解できる。

『はじめてのかいしゃ』

 サラリーマン経験のない小坂先生の書いたサラリーマンもの。1998〜1999年作品。経験が無いためか、サラリーマンにおける典型的初イベントが速射砲のように続きます。
 そして、主人公の新田は、唐沢なをき『オフィスケン太』に似ている。


 「ある日突然」 はじめての入社。
 「最悪の席」 はじめての配属。人事異動があると、会社も席替えしますよ。面倒くさいので最小限ですけど。
 「電話うけ失格」 はじめての電話番。しばくと言って、電話帳でしばく有言実行。電話帳も見なくなったなあ。タウンページ(職業別)ならともかく、ハローページ(50音順)ですから。
 「いちげんさんと常連さん」 はじめての社員食堂。
 「憧れのタイムカード」 はじめてのタイムカード。
 「いっそこぼせ」 はじめてのお茶くみOL。同僚向けお茶くみは絶滅しました。
 「怪電波OL」 はじめてのコピーOL。ほぼ絶滅しました。
 「まだ10時半」 はじめての屋上スポーツ。屋上が立ち入り禁止じゃない会社も減ったでしょうね。
 「この日のために」 はじめての赤提灯。いかにも初心者らしく。
 「軽はずみ」 はじめての転勤。徳之島は、トラオ関連で一瞬だけニュースで有名になりましたね。
 「狙えおかず課長」 はじめての昇進? 新幹線の顔も古い。

『サトの校舎』

 田舎の女子中学生4コマ。この方言は山口なのか、広島なのか。2003年作品。このころは、単行本を買い始めたころで、4コマ雑誌は、まだ立ち読みをしていました。
 「学級崩壊」 タイトルバックでゼッケンを隠しているから成立したネタ。
 「冒険者たち」 この立地で売り上げは? 仕入れは? と心配になります。駄菓子屋に着いたらリポビタンDを飲みたくなる立地。
 「思春期男子には酷」 中3男子とマンツーマンでスポーツやるのは、教師も大変そうだし、かといって、中1女子と対戦するわけにもいかず。
 「バスは1日1往復」 僻地に住むなら、スペア眼鏡は必須ですね。
 「さっきの駄菓子屋で」 Teensmateは手に入るけど、ブリーチは手に入らない。
 「野犬に襲われる」 先輩がサトを家まで送って帰ってくれば、万事解決。下校に要する時間が5時間半くらいになりそうだけど。男の子がいて、野犬に襲われるのは、萌えイベントだし(『エスパー魔美』の読み過ぎです)。というか、サトが『エスパー魔美』の「サマードッグ」を読んで「一回こんなんしてみたいなー」とか言い出したら、先輩が危ない!
 「えんじ色がダサいんよ」 ここで言う都会とはどこなのか。広島なのか、下関なのか、東京なのか。

『妖刀狗肉丸』

 時代劇4コマ。2004年作品。幕末を舞台に、呪われし刀、狗肉丸に関わる人々が、ツッコミのかわりに斬り殺されます。このあたりから、イベントページは、雑誌の切り抜きを保存するようになりました。
 「古道具商・鳴門屋源兵衛」 10人中7人が「切れる」、残りが無回答。瀕死の人間を捕まえて、アンケートをとる恐ろしさ。無回答は、すでに死んでいるという恐ろしさ。
 「長州浪士・周防豆子郎」 豆子郎は山口県銘菓のういろう。横浜のあざみ野にも、関東唯一の支店があります。長州だけに河豚、長州だけにういろう。「河豚食ってふぐ死んじゃったんですか?」は落語(らくだ)の台詞。
 「新撰組隊士・段鱈平助」 息子が死んだので、父を殺す。
 「素浪人・百足三十郎」 2コマ目の台詞が、意味違いで当たっているという仕掛け。
 「歴史学者・山本伝吉」 禁固3年となっていますが、警視庁のホームページによると、『銃砲刀剣類所持等取締法第22条 は、刃体の長さが6cmをこえる刃物については、「何人も、業務その他正当な理由による場合を除いては、これを携帯してはならない。」と定め、これに違反した場合は2年以下の懲役又は30万円以下の罰金を設けています。』となっています。

『わびれもの』

 まんがライフ出張編。中央線のガード下を巡る旅。2008年作品。
 雑誌掲載時に現地のレポートを書きました。こちら。
 当時の印象では、ゲームセンターの時間が止まっている感は、すごかったです。内装も、ゲームの機種も。

『東京ぐらしはじめました』

 実録エッセイ。小坂俊史先生が、就職活動に失敗し、竹書房で準月刊賞を取って、無謀にも上京し、4コマ漫画家としてひとりだちする手前まで。2005年作品。
 築30年くらいだと、現在なら条件に近いアパートが無いこともない。
 「憧れと実益」 首都圏で仕事するのに、中野にいる必然性は薄いと言わざるを得ません。千葉でも埼玉でも仕事はできたでしょう。でも『中央モノローグ線』は描けなかった。
 「絶対的ブランド」 貧乏アルバイターが、丸井で生活用具一式をそろえなかったのは好判断です。下北沢のダイエーは、古い住民にとっては忠実屋だったところ。現在はグルメシティを経て、Recipe SIMOKITAになっているそうです。
 「近からず遠からず」 就職活動失敗は、人生を全否定された気分になるけれど、バイトのお断りは需要と供給からビジネスライクに判断されたと考えられるぶん、多少は気が楽なもの。漫画喫茶にパソコンが無いのは時代。
 「今は近所のユニクロで」 中野から下北沢までの電車賃は惜しむけど、ファッションに妥協はしたくない若者の自意識。
 「ビルの谷間に」 ケータイのない時代に、新宿で1人ピックアップできる能力は、たいしたものです。いかに副都心と言えど、午前3時にはほぼ無人か。
 「こんなの初めてさ」 4コマ目の台詞に差し替えあり。雑誌掲載時は「なんか楽しいよな」「ホント楽しいよな」。今回は「ホントにリアルだよな」「リアルすぎて楽しいよな」。

うるぐす共和国』

 野球評論家江川卓漫画。1998〜1999年作品。日本テレビのスポーツ番組がモチーフ。あんまり野球をしない野球漫画。
 「堂々の白昼夢」 小坂先生の描く江川は、小沢一郎に似ている。


 「フィリピン航空全便欠航」 フィリピンで台風が15年後にシビアな問題になるとは。
 「それ俺じゃない」 4コマ目の「源一郎さん」は、作家の高橋源一郎。当時、競馬コーナーをやっていました。
 「もれなく音飛び」 シングルCDが売れていた時代。
 「無知と妄想」 有名な作品。1コマ目から異次元。
 「巨人的ドラフト」 松坂か上原か、今の時点でも、どちらが得だったか判断が難しい。
 「プレイングマネージャー」 目を合わさない柴田倫世
 「巨人に明け巨人に暮れる」 ロッテ、広島ファンの作者が、巨人情報を必死で集めた結果なのでしょう。
 「検閲官」 1998年巨人は3位。ファンのフラストレーションもたまっていたのでは。

あとがき

 人柄を偲ばせるエピソード。フナバさんは、秋葉原での小坂先生のサイン会で、少しお見かけしました。似顔絵は、かなり似ています。