ビッグコミックオリジナル2014年1月増刊号

ビッグコミックオリジナル2014年1月増刊号の感想
http://big-3.jp/bigoriginal/zoukan/index.html


 小坂俊史先生の新連載があるということで、初めて買ってみた雑誌です。
 アンチ不条理系4コマの雄である小坂俊史が、不条理系4コマの旗手であった吉田戦車中川いさみと同じ雑誌に掲載されるというのは、漫画史的な事件だと思うのですが、皮肉なことに、小坂俊史中川いさみはショートストーリーで、吉田戦車は実録4コマという状況は、「ギャグ4コマは、もはや流行のジャンルじゃないんだなあ」とも思わせます。


 しかし、この雑誌、連載漫画が22本で、うち4本が新連載、うち4本が最終回、単行本が2冊以上出ている連載が1本のみって、明らかに迷走していますよね。
 もちろん隔月刊の増刊誌なので、人気が出ると本誌に移るのでしょうが、それにしても長期連載や柱になる作品が無い。最終回になっていたストーリー漫画の出来も、「ここ数年こんなひどい漫画は読んだことがない」ってレベルだし。
 ビッグコミックオリジナル本誌が長期連載だらけで、上が詰まっているので、二軍が育たないのかもしれませんが、一軍のベテランも実態はヘロヘロではないですか。
 全体に、誰に向けて描かれた漫画なのか、よく分からない感じがします。メイン読者層のイメージがフワフワしている感覚。4コマ誌はマイナーだけど、読者層は良くも悪くも固定していたから、それに比べると落ち着きません。


『まどいのよそじ』 小坂俊史
 第1回 ケサランパサラン
 ビッグコミックオリジナル本誌のほうが、読者が高齢化している典型的な雑誌なので、本作は、増刊での読者の若返りを狙って描かせた漫画ではないか、と思っているのですが、どうでしょう。
 若手漫画家に、若手読者向けの作品を描かせてみた。その若手が39歳で、想定する若手読者は40歳近辺だったというのが、今の日本漫画の現状を示しています。
 作品自体も、若手としての40代、仕事はしていても、どこかモラトリアムの後期のような気分の残る40代を、描いていくのかもしれません。ストレートには漫画にしにくい分野を、どう作品にすくいあげていくのか、注目したいと思います。
 『モノローグジェネレーション』で、世代別のモノローグで世界を描いたのとは対照的に、世の中で宙ぶらりん感のある40代にカメラを固定して、その多様なあり方のモザイクを見せていくことで、40代だけにとどまらない人生の全体像を、見せてくれるのではないでしょうか。


 第一回のテーマは、ケサランパサラン。また漫画にしにくいネタを、しょっぱなに持ってきたものです。
 若い人たちは、ケサランパサランも知らないでしょうが、桐の箱やおしろいといったアイテムも、もしかしたら見たことがないかもしれません。その意味でも40代マンガですね。失われゆく昭和の遺物を、かろうじて懐かしめる世代としてのアラフォー。しかし、回顧あるある漫画では終わらないしたたかさ。
 部屋で増殖したケサランパサランは、どこか別のさびしい、どこか満たされない人へと、つながっていくのでしょう。毒にも薬にもならない、日の当たらない増殖のネットワーク。
 「わけのわからないものが、わけのわからないまま増殖していく」「そのことに理由のない充足感も覚える」というのは、間違いなく人生の経験そのものです。
 37ページの下の方に「↑小坂俊史  重野なおき↑」と書き込みたい衝動を覚えたのは内緒。


『メロスのバカ』 中川いさみ
 出オチ?とも思いましたが、いろんな場所や、いろんな時代を走れば、バリエーション豊富な展開は可能なのか。
 歩道の箱は、配電箱というそうですね。電線の地中化に伴って設置されるのだとか。だから田舎では見ないのか。


『阿鼻叫喚!! ゆるふわ地獄』 ほりのぶゆき
 もう少しディテールを描いてから展開させた方が良かったような。


『月は囁く』 宮崎克 青木朋
 「目元が不自然」と言う女主人公の目の描かれ方も、相当に不自然。


『新入社員浜崎伝助』 やまさき十三 北見けんいち
 寅さん映画の年代から舞台は1972年。1972年に22歳だと、浜崎伝助は現在63歳。主人公と同年代のメイン読者は、もはや定年後。定年後の読者に支えられるサラリーマン漫画の悲哀。