ノックス・マシン

ノックス・マシン

　法月綸太郎の中編集。本格ミステリを題材とした本格SF中編集。
　黄金期本格にガチガチの愛着があり、物理学SFも嫌いじゃないという読者は、これを読み逃すと生涯後悔します。本格ミステリと本格SFが火花を散らす途轍もない作品です。
　コンピュータによる自動生成文学。ノックスの十戒を数式で記述した十次元のマトリクスを作成し、シミュレーションを走らせるというシチュエーション。
　ワトソンとヴァン・ダインがたくらむアガサ・クリスティー謀殺。立ち向かうヘイスティングス。
　ワームホールからブラックホールまで。ワームホールは泡坂妻夫的。『シャム双生児の謎』では、読者への挑戦というブラックホールが、ホーキング放射で蒸発し、量子コンピュータ内に延焼する。
　推理小説における事象の地平は、読者への挑戦だけでなくて、無理めなロジックを小説のリアリティに着地させていく段階で、常に虚実のギリギリの界面は日々生まれているのでしょう。