サラリーマンギャグ漫画の歴史

 今月のまんがくらぶでは、『うずら谷くん』、『そうだ!会社にいこう!』、『いぬ会社』と3本のサラリーマン漫画が掲載されています。サラリーマン4コマが減っている現在では、非常に珍しいことだといえるでしょう。
 そこで、この機会に、サラリーマンギャグ漫画について、その歴史を振り返ってみることにします。よろしければ、お付き合いください。


1960年代〜1970年代: 平凡なサラリーマンの時代
 高度成長とオイルショックの時代。サラリーマン漫画の黎明期にあたる。中流階級としてのサラリーマンがクローズアップされてきた時代でもある。
 園山俊二サトウサンペイ東海林さだおらが主要な作家となる。なお、この時代のギャグ漫画は4ページ漫画が中心で、まだ4コマ漫画は少なかった。このころの漫画事情については、双葉社いしいひさいち文庫『武士道満腹物語』のみなもと太郎による解説が詳しい。例外的に、サトウサンペイの『フジ三太郎』は、新聞連載だったため、4コマ漫画である。同じく新聞連載の東海林さだおの『アサッテ君』が、このころ4コマだったのか8コマだったのかは不明。
 この時代の漫画の主人公は、特に奇矯な人格ではなく、ごく平凡なサラリーマンである場合が多い。主人公が勤める会社も、2流から3流のごく普通の会社である。サラリーマンの哀愁といったものが、基調のテーマになる場合が多かった。なお、東海林さだおは、現在もサラリーマン漫画を描いている。


1980年代: いたずらサラリーマンの時代
 1970年代末に、いしいひさいち植田まさしが登場し、4コマ漫画がブームとなる。1980年、植田まさしの『かりあげクン』が連載開始。「いたずらサラリーマンもの」の人気が確立する。平凡ではないサラリーマンが主役を務める作品が、出現したこととなる。これ以降、サラリーマン4コマの主流を、植田まさしが歩くこととなる。
 少し遅れて、そのフォロワーたち(いのうえ雅春、松田まさおなど)も、サラリーマン漫画を描くようになる。(ただし、松田まさおの登場は比較的遅く、初単行本が出たのは1990年代に入ってからである。松田まさおは、えんかい君、おてんき君といった作品を描いているが、初期における両者の作品傾向は異なる。えんかい君が、典型的ないたずらサラリーマンもので、植田まさしの模倣であるのに対して、おてんき君は、1970年代までのサラリーマン漫画の流れを汲む作品となっている。松田まさおについては、後日論じることがあるかもしれない。)
 植田まさしは、現在も『かりあげクン』を連載している。
 バブル景気は、サラリーマン4コマには、あまり影響を与えなかったようである。バブルの時期、4コマ漫画界も、『ぼのぼの』、『ここだけのふたり!!』などのヒットによって、一種のバブル状況にあり、サラリーマン漫画はそれほど注目されなかったようだ。


1990年代: シュールなサラリーマン群像の時代
 バブル崩壊の時代。新しいサラリーマン4コマの描き手は、あまり現れなかった。その例外は、大橋ツヨシである。『かいしゃいんのメロディー』では、主役のうずら谷だけでなく、脇役の左右、苦島、半場たちにも焦点を当てることで、いくぶんシュールなサラリーマンたちの群像劇を描き出して、新しいサラリーマン漫画の形式を提示した。
 また、4コマ漫画ではないが、吉田戦車の『ぷりぷり県』も、この時代のサラリーマンギャグ漫画の代表作と言えるだろう。『ぷりぷり県』においては、出身県に異様にこだわることで、奇矯なサラリーマン群像劇が描かれた。『かいしゃいんのメロディー』、『ぷりぷり県』ともに、現在は連載終了している。

かいしゃいんのメロディー (1) (Bamboo comics)

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ぷりぷり県 (1) (ビッグスピリッツコミックススペシャル)

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2000年代: 突飛な設定のサラリーマン漫画の時代
 この時代に始まったサラリーマンギャグ4コマも少ない。例外として、OYSTERの『光の大社員』がある。ふじのはるかに『オレをもりたてろ』『ヤング松島喜久治』などの作品もあるが(喜久治の本編は、派遣なのでサラリーマンとは少し異なると判断)、これらは、ギャグ漫画というよりは、『課長島耕作』などのサラリーマンストーリー漫画からの派生と見るべきであろう。リアル寄りにサラリーマン社会を描こうとすると、どうしてもギャグとは離れてしまう厄介な時代となった。
 そのような状況の中、まんがくらぶで、そにしけんじによる『そうだ!会社に行こう!』、『いぬ会社』という2本のサラリーマン4コマ漫画がスタートしたことは、興味深い。連載が長期となれば、サラリーマンギャグ漫画の今後を占う作品となるかもしれない。『光の大社員』、『そうだ!会社に行こう!』、『いぬ会社』ともに、突飛な設定に基づいて、リアルさとシュールさの同居した、一種異様な会社員生活を描いているという共通点がある。

光の大社員 1 (アクションコミックス)

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