文藝別冊 総特集いしいひさいち


いしいひさいち  仁義なきお笑い (文藝別冊/KAWADE夢ムック)

いしいひさいち 仁義なきお笑い (文藝別冊/KAWADE夢ムック)


 いしいひさいち先生のデビュー40周年の総特集ムック。

 表紙イラストからして、キャラクターが総出演で、いしいファン垂涎です。
 探し屋ケンちゃんとB型平次が同じイラストで共演(!)し、平次とハチの後ろからはホームズとワトソンが。ペンとインクのそばにはナベツネも。
 ロカちゃんのカップから顔を出したタイガースユニフォーム田淵を、三中野球部のぼるが見ている構図に、襟元から顔を出す富田月子。
 たかしとまつ子が灰皿にぶつかれば、のの子がサッカーボールで煙草をはじきとばす。忍者も地底人も軍隊も。


 巻頭の略歴の背景画は、バイトくんのファンならば必ず大笑いした1本(高圧線切断に挑む喜劇派)からの抜粋となっています。


『でっちあげインタビュー』
 いしいひさいち先生自身が創作した、自身についての直筆ロングインタビュー。虚実ないまぜにした、しかし、本質に迫る実に鋭いインタビュー(フィクションですが)となっています。
 現実のインタビュアーでは、ここまでの真剣勝負はできないでしょう。いしい先生へのインタビュアーに最適任であったのは、先生自身であったということ。自己を客観視できるからこその、はなれわざです。
 新聞、週刊誌も読まず、漫画を読む習慣をもたず、のライフスタイル。
 4コマ漫画に起承転結というセオリーは存在しない。起承転結に則って4コマを描く作家はプロにはいない。萌え漫画は良くも悪くも4コマの最新形。4コマのオチは4つのコマ全体で腑に落ちればいいわけで4コマ目である必要はない。
 『サザエさん』は作品としては平凡、作家としては凡庸。強度の『コボちゃん』、精度の小坂俊史、難度のいしいひさいち小坂俊史には通常あれやこれや描くことで形作られる『作品世界』があらかじめ自身の中に在ってしまっているかのよう。
 刺激的な内容が続きます。
 体調の関係で、新作の発表は、『ののちゃん』と公式HP(こちら)のみとなるようですが、どうか息の長いご活躍を。


『うろおぼえバイトくん』 秋月りす
 秋月りす先生といしいひさいち先生が、関大漫画同好会の先輩後輩だったとは。
 そして、面白い漫画として、いしいひさいち秋月りすに、いがらしみきおを紹介するエピソードが素敵すぎる。そして、作者自らが、漫画のスルメ度の話を。何度も何度も読んでも面白い漫画の秘密は、結局秘密のままに。


『地底人の征服』 さそうあきら
 これを読んで「チューコクジン チューコクジンチュウテ パカニスルナアッ オナジメシクテ(ギロリ)トコチガウ」と変換されてこそ、オールドいしいファン。


『中野荘20XX』 小坂俊史
 バイトくんの卒業後、現在の中野荘物語。あえてキクチ先輩を不在にすることにより、その存在の意義を現代に照射する試み。『ひがわり娘』における「ササキさん留守にする」の回のような。
 さすが、いしいひさいちの遺伝子を継ぐ作家。本格的なパスティーシュです。
 本家バイトくんでは、レトルトカレーやインスタントやきそばの画期的な食べ方が印象的でしたが、本作でもインスタントラーメンの食べ方は画期的。
 1コマ目の禍々しい廊下が伏線に。
 中野荘名物貧乏会議。田辺留年先輩は、今も在住なのか。
 第2289回徹マン大会。毎日やっても6年以上。


『お祝いの歌』 あずまきよひこ
 あずまきよひこ先生による『女には向かない職業』の藤原瞳先生、三宅さんの完コピ。歴史的な1本。


『ゲームセット』
 中学野球部ストーリー漫画。圧倒的なディテール。中学生のまぬけさと苦さが伝わってきます。


いしいひさいち小事典』
 まさか『セッケンバコ』や『私立白発中学校』がとりあげられるとは。


いしいひさいち展覧会』
 山野博史氏の偉業。


『データ主義的いしいひさいち年譜』
 豊福きこう氏の偉業。