こういう了見 噺家ほど素敵で不安な商売はない!?

 新進気鋭の若手落語家、古今亭菊之丞師匠の自伝的エッセイ。
 軽妙な語り口で前座、二つ目の修業時代や、真打昇進披露興行の裏話などが描きだされます。興味深い芸談もあり。
 すらすらと読めます。読み口の軽快さ、爽快さは、落語の芸風と通じているところがあるようです。
 菊之丞師匠は、中学のころから有名な落語小僧、高校卒業とともに古今亭円菊師匠に弟子入りし、3年半の前座修業の後、実力派として知られる二つ目に、そして異例のひとり真打昇進。ところが、この昇進が経済的にとてつもない苦難を招くことになり…
 現代落語家の修業のありよう、その全人格をかけた格闘の姿や、真打昇進をめぐるあれこれ、想像を絶する「おつきあい」についての証言など、「今」の時代の落語界の表裏についての、リアルタイムの当事者による貴重な資料となっています。
 驚いたのは、奥さんとの出会いについて。まるで本当の落語の世界のようです。
 それにしても、あふれるほどの才能を持つ菊之丞師匠でも、これだけの苦労をしなければ、真打にはなれなかったのですね。つくづく厳しい世界だと思いました。
 落語家志望者は必読。貴重な先輩の証言です。また、落語の愛好家にとっても、寄席の楽しみを倍増させるような読み物になっています。
 現代の落語界のあり方には、いかにも特殊な部分と、一般社会人にも通じる普遍的な部分の両方が、間違いなくあるんだなあと実感できました。


こういう了見

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