第五回鈴本余一会 古今亭菊之丞独演会
寄席の定席は、1〜10日の上席、11〜20日の中席、21日〜30日の下席という興行が基本で、それに属さない31日には特別番組が組まれることが多いです。2011年10月31日の上野鈴本演芸場では、第五回鈴本余一会、古今亭菊之丞独演会が催されました。
『幇間腹』 金原亭馬吉
『幇間腹』といえば、菊之丞師匠がNHK新人演芸大賞を獲ったネタ。あえてこのネタを独演会にぶつけてくる心意気やよし。
菊之丞師匠の『幇間腹』は何度か聞いているのですが、同門の噺家でも、なるほど演者が違うとずいぶん演出や印象が違うものです。聞くだに痛い噺なのですが、明るくて、あまり悲惨さを感じさせません。
マクラの決して逆らわない幇間のくだりも、幇間噺で菊之丞師匠が振る定番ネタでした。やっぱりこれは古今亭の伝統なのか。
『文七元結』 古今亭菊之丞
人情噺の大ネタ。個人的には長谷川町子先生の『町子かぶき迷作集』で読んだ話という思い出があります。
多彩な人物の描写が、的確で深いです。職人の家、吉原の遊郭、鼈甲を商う商家と、バラエティあるそれぞれの舞台を、リアリティを持たせて表現。
それにしても、生で見る高座が発する独特の磁力はなんなんでしょうね。意識しないうちに強く引きつけられていく感覚。満員の客席の中で、噺家と自分しかいなくなるような。
菊之丞師匠は、マクラではあまり声を張らないで、客が声に集中するように導きますが、そういったテクニックとは別に、噺そのものに強い磁力を感じます。この磁力は、テレビ録画ではいまひとつ伝わらないものです。
曲独楽 三増れ紋
曲独楽の演目は、あまりバリエーションがないので、演出勝負になるところがあります。昔寄席に通っていたころ見た、やなぎ女楽師匠の高座が懐かしいなあ。
『火焔太鼓』 古今亭菊之丞
古今亭志ん生師匠の得意ネタ。家にレコードがあったので、よく聞いていました。
菊之丞師匠の火焔太鼓は、志ん生師匠のそれとは、かなりクスグリが異なります。太鼓のサイズが大きいあたりは、金原亭馬生師匠ゆずりなのかな。古今亭に連なる噺家たちの『火焔太鼓』アレンジを調べてみたくもなりますね。
独演会ならではのお遊びで、将軍様お買い上げバージョンでした。これによる、新しいクスグリが2ヶ所。
声色が得意な菊之丞師匠、売り声いろいろのマクラも絶品でした。