矢上教授の午後

 森谷明子の長編ミステリー。
 多視点のカットバックで、一見平穏な日常が、謎の気配を含んでスリリングに展開する前半と、大学の古ぼけた研究棟が、なんと吹雪の山荘と化してしまうユニークな後半。
 殺人事件のフーダニットとして読むと、ちょっと物足りないですが、それ以外にも、いくつもの謎が重層的に絡み合っているので、読み応えがあります。
 カバーでは、英国風コージーミステリーとして紹介されていますが、コージーの要素は、それほどない気がします。そのかわりに、大学ミステリーであり、吹雪の山荘ミステリーであり、(ネタバレ)動物ミステリーであり、といろいろな要素が詰め込まれた作品となっています。
 大学の研究棟での場面が緊迫したところで、のんびりした和菓子屋の風景が、巧みに差し込まれるのが効果的でした。


矢上教授の午後

矢上教授の午後