鷺と雪

 昭和初期を舞台にした北村薫の連作推理短編集。スーパー女性運転手、ベッキーさんシリーズで、名作「街の灯」「玻璃の天」の続編にあたります。


街の灯 (文春文庫)

街の灯 (文春文庫)


玻璃の天

玻璃の天


 上流階級のお嬢様の穏やかな日常を描きながら、当時の文化の豊穣、社会の歪み、歴史の軋みが、点景のように浮かび上がります。そして、雪の朝へ。
 帝都に鳴いたブッポウソウ(コノハズク)の声は、やがて来る空襲警報の暗喩となり、ミステリーのキモとなるドッペルゲンガーは、軍部内の暗闘の比喩となっています。桜田門外の変からの連想は、昭和の歴史的事件を予感させます。
 解かれる謎は、いわゆる日常の謎なのですが、物語の着地点は思いもよらない所でした。
 周到な伏線を張り巡らせて、「この世では何でも起こるものだ」ということを示すのがミステリーの定義だとしたら、本作こそがミステリーの真骨頂と言えるでしょう。
 静かな3作目ですが、終盤の読み応えは格別です。
 ミステリーとしても、小説としても、昭和史を捉えなおす資料、現代を考える資料としても、必読のシリーズです。強くお勧めします。


鷺と雪

鷺と雪