儚い羊たちの祝宴

 米澤穂信の連作短編小説。若い女性の一人称で、いつとも知れぬ時代の旧家の内幕と、そこでの犯罪を、華麗かつ残酷な筆致で描いていく暗黒ミステリです。舞台はさまざまですが、「バベルの会」という、名家の子女が集う読書サークルが、全ての作品に関わってきます。
 作者の深い教養が伝わってくる、実に読み応えのある傑作です。古典の知識が無く、ミステリについても、折竹孫七って誰? というレベルの私は、分からない言葉や書名が出てくるたびに、Googleの助けを借りて読みました。
 幻想的で現実離れした舞台なのに、描かれる人間心理はリアルで、さらにそれを狂気が覆ってゆきます。
 本作は、各作品の最後の一行に、驚きが用意されている、「フィニッシングストローク」を意識した作品群となっています。しかしながら、帯にあるコピーは、少しばかり書きすぎだと感じました。最後の一行は、もちろん、とても重要ですが、あまりそればかりを意識しないほうが、良い読書ができます。
 「身内に不幸がありまして」 アンソロジーで既読。名家のお嬢様に仕える少女の独白。ひねりの効いた小道具。恐るべき反転の構図。
 「北の館の罪人」 北の館に幽閉される兄。妾腹の少女は、その兄から奇妙な買い物を頼まれます。
 「山荘秘聞」 山深い別荘の管理を任された完璧な使用人。そこに潜む狂気。
 「玉野五十鈴の誉れ」 雑誌で既読。「身内に不幸がありまして」とは逆に、使用人の少女との交流を深める、名家のお嬢様の一人称で描かれます。
 「儚い羊たちの晩餐」 成金の娘の独白。そこに雇われてきた女料理人は、プロ中のプロ。料理人と「バベルの会」の運命が、思いもよらない交錯をします。


儚い羊たちの祝宴

儚い羊たちの祝宴