厭な物語


厭な物語 (文春文庫)

厭な物語 (文春文庫)


 古今の翻訳短編小説から、読後感の悪い厭な物語の名作を集めたアンソロジー。犯人当ては無いものの、アガサ・クリスティーをはじめ、広義のミステリに分類される作品が多く集められています。
 本来、ミステリ好きというものは、良い探偵が、悪い犯人をつかまえて、めでたしめでたし、という予定調和のハッピーエンドを求めるもの。しかし、それが当たり前だからこそ、ときにあるバッドエンドの物語が強烈なインパクトとなります。短編ミステリの名作において、バッドエンドのものが珍しくないのも、そういう事情によります。
 私もミステリ読みとして、特にバッドエンドには固執してこなかったのですが、それでも、本書の11編中6編は既読でした。
 このうえなく上品な文体で残酷な物語を記す『フェリシテ』の後に、このうえなく下品で、このうえなく残酷な『ナイト・オブ・ザ・ホラー・ショウ』が配される配置も絶妙。『ナイト・オブ・ザ・ホラー・ショウ』は本当に厭でした。こんなとこに住みたくねえ。
 そして、最後の『うしろをみるな』の幻想シーンの美しさには、何度読んでも感慨を新たにします。無差別殺人鬼の抱える幻が、かくも甘美だとは。
 何にせよ、人間が考える「最悪」というのは、この程度のもので、小説の形をとれば、一応エンターテインメントとして楽しめるのですから、人生における災厄も、所詮はこの程度なのだと考えれば、少し気が楽にもなります。