あなたに贈るキス

　近藤史恵の長編ミステリ。サスペンスフルな女子寮ものの傑作です。
　学生寮を舞台にした作品は、ミステリの定番のひとつですね。ほどよい閉鎖性が、ミステリと相性が良いのでしょう。
　この作品は、キスでしか感染しない死病の蔓延をうけて、キスがタブーとなった近未来が舞台となっており、あこがれの先輩が、その死病で死んでしまったところから、物語の幕は開きます。そして、繊細な美少女の目を通して、時にひどく残酷な愛のすがたが描かれることになります。
　キスがタブーとなったということは、恋愛のありかたや、社会のありかたにも、暗い影を落としています。その意味で、この作品も『闇の喇叭』と同じく、一種のパラレルワールドを扱った作品と言えるでしょう。
　違う作者のパラレルワールド青春ミステリが、同じ出版社（理論社）から、ヤングアダルト向けの作品として、ほぼ同時期に出版されたというのは、興味深いことです。南北分断、キスによる死病などをギミックとして、現代社会を組み替えた物語が、かえって鮮やかに現代社会の問題を照射しています。

あなたに贈るキス (ミステリーYA!)