闇の喇叭

 太平洋戦争後、南北に分割統治されたパラレルワールドの日本を舞台にした、有栖川有栖の長編ミステリ。この世界では、南北の緊張もあって、政治はより抑圧的で閉鎖的、私的な探偵活動は禁止されています。
 パラレルワールドに映し出されるのは、リアルワールドの現代日本における閉塞状況。パラレルワールドでの問いは、リアルワールドでの問いにつながります。
 メインキャラクターとなるのは、東北地方の高校生の少女2人と少年1人。彼女たちは、閉塞した社会に対峙する気概を持っており、青春小説としての色合いも濃い作品です。
 重い話もあって、かなり読み応えがあるのですが、のびやかな高校生の思考に引きずられて、読み口の印象は爽やかです。
 ポリティカルなフィクションとしても、切実な青春小説としても、端正なミステリとしても、傑作と言えるでしょう。この本が、この時代に、ヤングアダルト向けの叢書として出版された意義は大きいと思います。


闇の喇叭 (ミステリーYA!)

闇の喇叭 (ミステリーYA!)