横道世之介


横道世之介 (文春文庫)

横道世之介 (文春文庫)


 吉田修一の長編青春小説。
 長崎から上京した大学1年生の1年を描きます。コミュニケーションが下手な、さえない変わり者が、人と出会い、恋をして、人生の道をみつけるまで。
 そして、公開中の沖田修一監督による映画版が非常に素晴らしい。基本的には原作に忠実でありながら、映画的な仕掛けを次々に繰り出しています。こんなにも映画的な映画が、全国ロードショーされるというのは信じられないくらい。
 原作にはないハンバーガーのシーンとステーキのシーンは、奇跡のようでした。観客の走馬灯のスイッチをオンにする卓越したギミック。このようになにげない日々の、輝いた一瞬が残っていく、伝わっていくのだとしたら、人生には意味がある、と本気で感じました。とびきりのペシミストにも「人生って悪くない」と思わせる作品の力があります。
 スイカのシーン、いくつかある階段のシーン、カーテンのシーン、雪のシーン、映画は忘れがたい瞬間で溢れています。
 公開はほとんど終わってしまいましたが、DVDでも是非。