けいおん!

 米澤穂信の『氷菓』を京都アニメーションがアニメ化するということで、その予習も兼ねて観てきました。『氷菓』シリーズのときには、『クドリャフカの順番』か『二人の距離の概算』が劇場版になるのが、ミステリファンとしての理想です。


 映画『涼宮ハルヒの消失』のときは、「あと30分短くすれば、物語が締まるのに」と思ったのですが、『けいおん!』の場合には、話を短くしようと思えば、いくらでも短くできるというのが画期的ですね。メインストーリーは、「あずにゃんに曲を作りました。おしまい。」だけなので、極端な話、上映時間が5分でも成立してしまいます。例えば、ロンドンに行かなくても(ベーカー街221Bにも行ってましたが)、全然ストーリーは破綻しません。映画『けいおん!』の手法を使えば、アニメの『サザエさん』ですら、映画化は可能でしょう。


 私は、ミステリファン兼4コマ漫画ファンですが、萌え4コマについては、詳しくはありません。『けいおん!』原作も1巻を読んだだけで、テレビアニメも観ていません。ただ、萌え4コマが「楽園としての日常」を描いていることは、知識として知っていました。映画を観て、なるほど、これは「楽園としての日常」だなあと納得しました。


 『けいおん!』は軽音楽部5人のための世界であり、人間関係もその周囲で閉じていて、すべてのエピソードにおいて、「5人が主役である」ことが保証されています。
 それは、ロンドンという異世界へ行っても変わりません。アフタヌーンティーの店では、予約がなくて断られていますが、これも普段のティータイムとは違うマナーが要求される英国式アフタヌーンティーを、『けいおん!』という舞台が拒んだとみることもできます。
 卒業という大イベントにおいても、離ればなれになっていくクラスメートについては、ほとんど描かれず、一緒の大学に行く軽音楽部のみが主役という演出が貫かれます。
 このような構造の物語が、一部男子に熱狂的に迎えられているという状況には、多少の違和感を覚えないわけではないのですが、エンターテインメントの1ジャンルとしては、これもアリなのかもしれません。


 ただし、次にアニメ化される『氷菓』シリーズは、地味ながら、「楽園としての日常」や「青春期の万能感」を、完膚なきまでに叩き潰しかねないポテンシャルを持っています。『氷菓』シリーズが、どのように料理され、どのように評価されるのかが楽しみです。たぶん『千反田萌えー』だけでは済まないと思いますので。