ビッグコミックオリジナル2015年7月増刊

ビッグコミックオリジナル2015年7月増刊の感想
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『まどいのよそじ』 小坂俊史

第10回 喪主
 喪男→喪主→リア充理論。
 小坂俊史先生は、たしか次男で、20代のころに父親を亡くされているはず。そして、お兄様は既婚で、甥御さんもいらっしゃるとか。いうことで、ある程度は、自己を投影した作品なのかもしれません。自らがリア充に加わった、このタイミングで(おめでとうございます)。
 自己表現の苦手な人間が、自己表現で飯を食うことは、意外に多いものです。リアルタイムでのコミュニケーションが苦手なだけで、表現したいものが中で渦巻いている、というのもよくあること。渦巻いているからこそ、口から出にくいわけです。
 「喪主」にすべてのキーがあると思い込むレトリックは、ミステリ小説的な歪みを孕んでいます。泡坂妻夫作品とか、『ナツメグの味』とかのような。そして、物語はクライムストーリーへと向かっていきます。
 「どんな役であれ土壇場で逃げる」テクニックは、母親譲りでした。そして母親のほうが技量は上。遺伝するほどのものですから、それだけ変わりにくいものであって、実際、あまり変わらないところへと着地しました。しかし、同じポジションでも、経験値については、格段に蓄積しているのでしょう。
 終わってから考えると、「殺してでも、手に入れたかった」ものではなく、「殺しでもしないと、手に入れる気にならなかった」ものだったようにも思えます。
 2ページ目冒頭のノーリアクションが、地味に効きます。そして、「人前に出ない人生」のいちいちに、心当たりがありすぎました。母親のメールの文面の、萌えキャラっぷりも要注目です。