『オフィスのざしきわらし』 小坂俊史


[rakuten:book:15566745:detail]


 小坂俊史先生のOLオフィス4コマ。近年まれにみるビビッドでポップな表紙。ぱらぱら漫画のおまけもあり、気合のはいった造本。
 古き良きサラリーマン漫画の伝統を引き継いだオーソドックスさを持ち、4コマ初心者にも優しい作品ですが、一方で、小坂漫画ならではのキレ、スピード感、キャラクターのバリエーションなど、すれっからしの4コママニアをも満足させる作品ともなっています。


 主人公、志咲笑子さんは中途採用のサボリOL。入社当初は座敷童的なご利益を期待されていましたが、その後、その設定はほとんど忘れられ、サボリとイベントの企画に、天才的な手腕を発揮することになりました。会社更生法適用後には、暴露本のネタ要員として、会社の再生に大きく寄与することに。
 志咲さんの燃料はまんじゅうで、まんじゅうで動きます。まんじゅう1個で10km動けるため、まんじゅう10個のためなら100km先まで買いに行くという計算?になります。出社前には、まんじゅうを自分の窯で焼いたりもしています。


 立花さんは、志咲さんの同僚のOL。長らく一匹狼的なサボリを続け、サボリの秀才としての趣がありましたが、志咲さんと組むことで才能がさらに開花。二人つるんで非常識なサボリをエスカレートさせていくこととなります。


 南やや子さんは、もとプロ歌手のOL。人生と会社のダークサイドに目をつけ、うらみを込めた暗黒ブルースを歌い上げます。歌手としてのプライドが高い分、落ち込むときはとことん落ち込むというのが、よくあるパターン。最終的には、南さんは退社して、会社への恨みつらみを昇華させた『ざまあみろルンバ』で大ヒットを飛ばします。


 佐堀さんは、志咲の先輩OL。「さぼり」という名前ですが、まじめが服を着ているような女性。ただし、ゴキブリ駆除会社設立の際には、会社を辞めようとしたお茶目さも持っています。


 彼女らの上司は総務部長。基本的にはまじめな人物。ハルコビヨリのやっさんにならぶ、小坂漫画におけるツッコミのプロ。志咲さんと立花さんが組んだことで、ますます胃が痛い日々が。


 舞台となるのは全国に展開する中堅商社、緑風商事。社長は物好きで、一芸に秀でた人材を次々に中途入社さますが、ことごとく失敗します。
 一芸としては、座敷童、暗算、ロッククライミング、小説家、気象予報士、元駅伝選手、占い師、漢字検定一級、元サッカー選手、日本語博士、元消防士、探偵、心理学者、書道家、整体師、円周率暗記、カンニング王、元力士、スキー選手、かつら技術者、怖い話王、フィーエルヤッペン選手、歌手など。23人採用して、残ったのは志咲と南のふたりだけ。
 中途採用ネタに関しては、4コマ目でクビになるというひとつの落ちに向けて、どのような展開のバリエーションがありうるのか興味深かったです。


 単行本のオマケは社員旅行編。伊豆半島から、急きょ客先の広島へ。いいから早く書類を直せ。
 もっと連載が続いていたら、全国の支店をまわる出張編があっても面白かったかもしれません。新製品の全国キャンペーンなんかで。


 不況の時代のお気楽オフィスもの4コマには、不況<サボリにしてしまうほどのパワーが必要なわけです。あくまでもフィクションですから。
 やる気のないお茶くみコピーOLでも、社史編集を2週間で終わらせるなど、やるときはやるというエネルギーをときどきは示せれば、不況の時代にも、きちんと欺瞞でないパワフルな会社漫画、オフィス漫画、OL漫画は成立していきます。