ハナシがうごく!

 田中啓文の落語青春小説。連作短編集。笑酔亭梅寿謎解噺の4冊目です。
 ミステリー色はずいぶん薄くなったものの、落語小説、ビルディングスロマンとしては、相変わらず舌を巻くほど面白いです。未読のかたは、シリーズ1冊目、文庫の『ハナシがちがう』から是非読んでみてください。決して損はさせません。
 舞台は大阪、上方落語。芸は凄いが、大酒のみで素行は滅茶苦茶の笑酔亭梅寿に、無理やり弟子入りさせられた、トサカ頭の不良少年(というほど悪くは全然ないのですが)竜二の成長物語。トサカ頭のまま落語家になります。とはいえ、師匠が滅茶苦茶な性格なので、落語家としての道のりは、まさに山あり谷ありです。
 主人公の竜二は、誘惑に弱く、喧嘩っぱやくはあるものの、基本的にはすごくまじめな人間で、本人に全く自覚は無いのですが、笑いに対する豊かで鋭い才能を秘めています。その竜二が、時に大きな回り道をしながらも、落語の道を進みます。
 今巻では、食うや食わずのバイト生活、年季明けの極貧生活、CD化騒動、なぜかの漫才挑戦などが描かれます。大きなピンチの連続で、小説の終盤まで、どうなるどうなると思わせておいて、最後の少ない枚数でストンと予想外のラストに持ち込むところは、優れた落語のサゲのようです。
 まだまだ続きそうなので、続刊が楽しみです。


ハナシがうごく!―笑酔亭梅寿謎解噺〈4〉

ハナシがうごく!―笑酔亭梅寿謎解噺〈4〉