扉は閉ざされたまま
石持浅海の長編ミステリ。倒叙ものですが、ひとひねりしてあります。
そもそも、単純な倒叙ものは、長編小説にはなかなか向きません。そこで、倒叙ものの長編においては、倒叙のほかに、なにか仕掛けを用意してあることが多いです。この作品の仕掛けは、密室と、「ゼロ時間」の設定です。
アガサ・クリスティに『ゼロ時間へ』という作品(名作です)がありますが、犯行計画のうち、どの時間をゼロ時間と置くかは、結構ミステリのキモとなります。
この作品の場合には、密室が解放される時間が、ゼロ時間となります。そして、その時間は、なかなか訪れません。いまだ犯行が発覚しない状態で、犯人が、密室の開封を引き延ばそうと動くなか、静かな頭脳戦が展開されます。
犯人と探偵の一騎打ちの様相を示すのは、刑事コロンボなど、多くの倒叙ものの伝統を継いでいる感じです。
犯行動機に難があることは否めませんが、間違いなく傑作です。刊行当時、非常に話題になっただけのことはあります。
- 作者: 石持浅海
- 出版社/メーカー: 祥伝社
- 発売日: 2008/02/08
- メディア: 文庫
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