扉は閉ざされたまま

 石持浅海の長編ミステリ。倒叙ものですが、ひとひねりしてあります。
 そもそも、単純な倒叙ものは、長編小説にはなかなか向きません。そこで、倒叙ものの長編においては、倒叙のほかに、なにか仕掛けを用意してあることが多いです。この作品の仕掛けは、密室と、「ゼロ時間」の設定です。
 アガサ・クリスティに『ゼロ時間へ』という作品(名作です)がありますが、犯行計画のうち、どの時間をゼロ時間と置くかは、結構ミステリのキモとなります。
 この作品の場合には、密室が解放される時間が、ゼロ時間となります。そして、その時間は、なかなか訪れません。いまだ犯行が発覚しない状態で、犯人が、密室の開封を引き延ばそうと動くなか、静かな頭脳戦が展開されます。
 犯人と探偵の一騎打ちの様相を示すのは、刑事コロンボなど、多くの倒叙ものの伝統を継いでいる感じです。
 犯行動機に難があることは否めませんが、間違いなく傑作です。刊行当時、非常に話題になっただけのことはあります。


扉は閉ざされたまま (祥伝社文庫)

扉は閉ざされたまま (祥伝社文庫)