山口雅也の本格ミステリ・アンソロジー

 本格ミステリの王道でありながら、同時に本格ミステリのパロディでもあるという、マニアックな作品を多く書いている山口雅也先生のセレクションによるアンソロジー
 ひねりの利いた謎物語が集められています。山口先生による解説がとても充実しているので、それらを読んでいただければ、私ごときが説明することなどないのですが、あえて簡単にご紹介を。
 全体は6部構成となっています。
 まずは「意外な謎と意外な解決の饗宴」、舞台の特殊性が謎解きに結びついている、ジェイムズ・パウエル『道化の町』、ミッシングリンクものの短編、アーサー・ポージス『イギリス寒村の謎』が面白いです。
 続いては、「ミステリ漫画の競演」、「リドルストーリーの饗宴」。ミステリ漫画については、ノーコメント。リドルストーリーについては、かなりメジャーな作品が揃っています。
 「幻の作家達の饗宴」には、ブラウン神父のパスティーシュ、乾敦『フォレサイ島の奇跡』など。
 「密室の競演I (最後の密室)」には、厳密な密室の定義にこだわって、つきつめるところまでつきつめてしまった作品が収録されています。
 「密室の競演II (密室の未来)」は、逆に、密室とSFの組み合わせ、密室と不条理小説の組み合わせで、密室ものの可能性を広げた作品、アイザック・アシモフ『真鍮色の密室』、J・G・バラード『マイナス 1』を収めています。これらは、柄刀一殊能将之や『奇偶』のアプローチに近い印象を受けました。
 ミステリ中級者向けのアンソロジーという印象です。もちろんミステリ初心者が読んでも面白いのですが、エラリー・クイーンのパロディや、ブラウン神父のパスティーシュなど、応用問題系が多いので、中級向けかなと。山口雅也先生のファンには、もちろんお勧めです。

山口雅也の本格ミステリ・アンソロジー (角川文庫)

山口雅也の本格ミステリ・アンソロジー (角川文庫)