天草の霧

 斉藤洋の児童向け歴史ファンタジー。白狐魔記シリーズ。
 仙術を使う不老長寿の若いキツネ白狐魔丸が、源平の合戦のころから、江戸時代まで、人の世の動きを見つめます。今回の舞台は島原の乱です。
 前述のとおり、狐が術を使う世界なのですが、本巻では人間も術を使います。確かに、狐が使える術を、人間が使えない法はありませんからね。
 白狐魔丸は、大きな歴史の流れを変えることはできません。その意味でタイムパトロール的であるとも言えます。島原の乱では、籠城した一揆の集団から、逃げたい人だけを逃がしますが、大規模な殺戮は止められないと悟っています。
 本作では、戦い自体にはあまり多くのページを割きません。血なまぐさい殺戮の様子は、前作の一向一揆で、描ききったからかもしれません。そのかわり、島原の乱の背景が記述されます。決して、単純にキリスト教徒=善として描くわけでも、キリスト教徒=悪と描くわけでもなく、けれど避けがたい殺戮に向かう道が描写されます。


天草の霧

天草の霧