今月のまんがくらぶオリジナル

まんがくらぶオリジナル2010年3月号の感想


『オフィスのざしきわらし』 小坂俊史
 新連載2回目。作品の枠組みがみえてきました。
 小坂俊史の作品の特徴は、「ダメな人、ダメな集団」を描くことにありますが、さらに大きな特徴は、ダメな人たちが、そのダメさを抱えたままで、みごとに輝く姿を描くところにあると思っています。
 ダメさを単に克服するのではなく、ダメさを突き抜けた場所に、普遍につながる価値を見出しているところに、小坂作品の非凡な視座があります。「ダメな人間が、いかに明るく生きられるか」という大きな問いに、フィクションの世界で、フィクションの世界なりの答を出している、とも言えるでしょう。


 そもそも、「ダメな人間が、いかに明るく生きられるか」というのは、もっとも古典的な娯楽のテーマのひとつです。それこそ、ドン・キホーテから、いしいひさいちの『バイトくん』シリーズまで。人間にとって普遍的な問いかけでもあるし、癒しでもあるのでしょう。
 程度の差こそあれ、人間は誰しも、自らの「ダメさ」を抱えて生きるものです。長く続く不況の時代、働く人間にとって、自分の「ダメさ」は、会社の業績や自らの雇用に直結しがちなので、悩みや苦しみは尽きません。
 そのような時代にあって、あえて一般的な働きの場、オフィスを舞台に「ダメ漫画」を描くことは、小坂俊史にとって必然であったのかもしれないと思います。


 ただし、『オフィスのざしきわらし』を、座敷童子の能力ゆえに何をしてもクビにならない非常識なOLが、自分のダメさに自覚もないまま、ふてぶてしくサボる漫画である、と読んでしまっては、この作品の真価には気づけないでしょう。
 この作品の「ダメ」は、三段構えになっています。「天然」で「サボリの天才」な「ダメOL」、「非常識」な社長と「無能」な役員が率いる「ダメ会社」、先の見えない不況の「ダメ社会」。
 「ダメ社員」と「ダメ会社」の組み合わせが、マイナスにマイナスを掛けたらプラスになるように、「ダメ社会」に立ち向かう、というのが、作品の基本構造です。オフィス漫画で「ダメ」を突き抜けさせるためには、このようなギミックが必要だったのでしょう。
 「ダメ」でも不況に押しつぶされない、という物語として、『オフィスのざしきわらし』は、働く人たちに向けて開かれた娯楽となっていくのだと思います。


 また、ワラシは社内で単純に甘やかされているわけではないことにも、注意をしておく必要があります。社内の力関係は、ワラシ、直接の上司(総務部長と佐堀さん)、経営陣(社長、役員)で、3すくみになっています。ワラシは経営陣には強いけれど、総務部での上司と部下の力関係は正常で、基本的に揺らいでいません。一緒の職場で働いている総務部長も佐堀さんも、リアリストなので、座敷童子のジンクスは、知っていても本気にしていないようです。彼らは、仕事の場でワラシを特別扱いするつもりはありません。不必要にジンクスに振り回されて、ワラシにかまうのは、会社の経営陣、特に役員たちに限られます。
 役員たちは、愛社精神はあるけど、空回りする「ダメ」を演じています。役員たちが「無能」であるのは、社長の道楽による新規採用にブレーキをかけられないこと、それでいて、すでに採用してしまった新入社員について、その処遇を雁首そろえて呑気に話し合っていること、などから明らかです。
 ワラシは、基本的に、支払っている給料以上の損害を会社に与えていませんが、役員たちは、無駄に動き回ることで、社史発行のコストや、喫茶室のコストなど、無駄な経費で会社に損害を与えています。


 主人公は、天然でサボリの天才のダメOL、その上司は計算高く有能なリアリスト、さらにその上司は、空回りする無能役員(小人物的ダメ)、その上が、非常識な中途採用を道楽で行う社長(大人物的ダメ)。
 このようなダメ会社のなかの重層構造と、社内でのワラシ、上司、役員の3すくみの力関係、そしてダメ人間、ダメ会社、ダメ社会という三層構造が、この作品を支えています。このような構造が、不況の時代に、「会社社会のなかで、ダメ人間たちが明るく生きていく」というフィクションを構築するために、用意されているのです。


 この作品は、コップの中の嵐を描いた綿菓子のような漫画ではありません。そのため、読み手にも、応分の咀嚼力と、目先のモラルにとらわれすぎない度量の大きさを要求するのかもしれません。
 しかし、ワラシは、ただサボっているのではありません。作品の構造の中で、読者にかわって、不況に立ち向かい続けるヒロインでもあるのです。確かに模範的な姿ではないですが、「これでも生き抜くことができる」という、いきいきとした姿を、フィクションのなかで示すことで、働く人たちすべてにエールを送っています。


 『オフィスのざしきわらし』は、社会に対して開かれた、公共性のあるダメ人間漫画で、そのスタンスは、いしいひさいちの『バイトくん』シリーズと良く似ています。一見すると、素朴な漫画のようですが、「ダメな人間が、いかに明るく生きられるか」というオーソドックスなテーマで、会社漫画を描くために、さまざまなギミックが、張り巡らされているのです。


「フレッシュさを何度でも」 ワラシは『せんせいになれません』でいうと、河田+和泉の感じ。立花さんは、やればできる娘なのでしょう。緑風商事は、緑風荘からのネーミングのようです。
「むこう10年これで持つ」 ワラシと立花さんの仕事に対するポテンシャルの高さが立証されました。普段は役に立たないけど、飛び道具としては使えそう。
「むこう10年語り草」 悪名は無名に勝る、といったところでしょうか。想像がふくらむ1本。
「マイナス20度いくという」 総務部長は、役員に弱い。当たり前ですが。
「思いたったらすぐの人」 1コマ目の時計が伏線だったのですね。
「下っ端重要任務」 佐堀さん、『ハルコビヨリ』のやっさんに続く、眉間にシワのキャラになりそうです。
「シンガー南」 「小づかいも減ってる」が伏線でしたね。
「無煙の楽園」 お菓子までは許すが、と言う総務部長が、ちょっとかわいいです。
「最悪の選択」 お茶くらいのことで、キレ者を気取る総務部長が、ちょっとかわいいです。
「外へ外へ」 普通の漫画なら、「窓の外」でオチにするところを、「転落して退社」で追い討ちをかけるところが、小坂先生の黒さですね。
「受け入れ体制」 今度は沢口化。


『こうかふこうか』 佐藤両々
 「営業の新人」 「ハイ」って、新人ちゃんかなりの天然ですね。


『がんばれ!メメ子ちゃん』 むんこ
 「もう一度2人で」 亮はなんて言ったんだろう。鈍いもので分かりません。


『あにメカ』 よしむらなつき
 新連載。でも、ネタの幅が狭くなりそうなのが、ちょっと気がかりです。ある程度定型化したネタを楽しむ漫画になりそうかな。


『Good Morning ティーチャー』 重野なおき
 「チャンス逃すな」 1コマ目の上原とウッチーの会話は、学園祭でやるネタへの前振りになっているのかな。


シュレディンガーの妻は元気か』 中島沙帆子
 「理系の価値」 ステンレスの指輪、ネットで探したら結構売っていますね。数千円と安価。金属アレルギーが出にくいとか。
 「悩み解決!」「肉食VS草食」 ハルトが宿題をやっているってことは、取引は成立したわけですね。


『さかな&ねこ』 森井ケンシロウ
 twitter上で、ネタのよく出る場所を探す森井先生に、佐藤先生が兵庫の喫茶店を紹介して、飛行機で来たらどうですかという話になって、Beef or Fish ? みたいなネタが出るよ、という話が出たのです、確か。


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