深山に棲む声

 『千年の黙』、『七姫幻想』などの名作で知られる、歴史ミステリーの名手、森谷明子による長編ファンタジー小説
 ババヤガーの民話、山姥の民話を下敷きにしながら、深山の山中の集落の歴史を辿る、密度の高い歴史ファンタジーです。
 ミステリーの手法を生かし、時代の前後する様々なエピソードを、多視点のカットバックによって、モザイクのように組み立てながら、やがて歴史の真実を浮かび上がらせます。
 ある集落の成立を追う物語として、読後感は、ガルシア・マルケスの名作『百年の孤独』に近いものがあります。
 貧しい南の村々、領主達が争う北部の山岳地帯、西の都、そして深い山。舞台も、そこでの人々の暮らしも魅力的です。
 ミステリーファン向けには、雪の密室の趣向もあり。メタフィクショナルな仕掛けもあります。
 読者に相応の読解力を要求する物語ですが、読書の喜びに満ちた一冊。傑作です。


深山に棲む声

深山に棲む声